子どもの人口減少、出生率の低下。これは、日本だけでなくハワイでも見られる傾向だ。ハワイでは、1980年に人口1000人当たり18·6人だった出生率が、2011年には13・8人に減少。20年間で約22%減っている。そのため、ハワイの大学の学生数が減少するなどの影響が出てきている。少子化の要因としては、経済的な理由が見逃せない。なにしろハワイは、子育てにかかるコストが全米一高い州なのだ。不動産や物価が高く、その割に賃金が低く、また産休が企業に義務づけ
られているもののそれは無給で、さらにチャイルドケアの費用も全米で6番目に高いことなどが影響している。子どものいる家庭にとって、ハワイは必ずしもパラダイスとはいえない。3〜4歳になると子どもはプリスクールに通うようになるが、公立校がなく、月謝は$1000前後と高い。そのためプリスクールをあきらめる家庭も多い。
一方で義務教育は公立校なら無料だ。日本とは異なるシステムで、キンダーガーデン1年、小学校5〜6年、中学2〜3年、高校4年の合計13年間、無料で教育を受けることができる。ただ公立校の学力レベルは低めで、長年、全米最下位を争っていたほど。ここ数年、かなり改善されたものの、全米平均にはまだ及ばない。公立校の教育レベルの低さから、私立校に通う子どもの割合が高いのも、ハワイの特徴だ。私立の学費は年間$1万から$2万以上。子どもが2〜3人いる家庭にとっては、かなりの負担になる。経済的には厳しい状況のハワイの子育て。だが、海と山がすぐ近くにある豊かな自然は、子どもにとって抜群の生活環境だ。そしてさまざまな国から来た移民が平和に共存しているというのは、移民の国アメリカでもあまり例のないことだ。学校には日系、中国系、韓国系、フィリピン系など移民の子孫が多く、反対に白人や黒人は少ない。
英語を母国語としない人のための英語教育ELSに早くから力を入れていて、多くの公立校がELSのクラスを設けているなど、移民の子どもの受け入れ体制もできている。多民族文化の中で、子どもたちは異なる価値観や伝統に触れながら成長する。また、ハワイでは子育ては母親ひとりの仕事ではない。共働きが普通ということもあり、父親の子育て参加は進んでいる。マタニティ教室、出産の立ち会いに始まり、学校の送り迎えや子どものスポーツチームのコーチまで、父親が役割分担するのは常識。さらにアジア的な家族の伝統が強く、近くに住む祖父母や親戚がベビーシッターを買って出る。平日は父方と母方の祖父母が順
番に子どもを預かり、週末だけ両親が子どもの面倒を見るというパターンも一般的だ。親戚の大人に遊んでもらい、近所に住むいとこと遊び、子どもたちはのびのびと育つ。
大学に進学する子どもは、公立高校では56%。全米平均の66%より低いものの、近年、進学率は上昇傾向にあり、2年制より4年制大学に行く割合が増えるなど、変化が見られるようになった。
その一方で重要な課題となっているのが、頭脳の流出。アメリカ本土の大学に進学した子どもたちが、卒業後もハワイへ帰らず、本土で就職、結婚してしまうのだ。不動産や生活費の高さ、賃金の低さ、そして職種が限られていることから、帰りたくても帰れないという人が多い。その結果、企業は常に人材不足の状況。ハワイで育った優秀な人材が地元に戻れないことは、ハワイの経済や社会にとって大きな痛手となっている。
また、公立校と私立校の格差や、公立校のなかでも学区によってかなりの差があることも問題だ。公立と私立を含む高校全体では、大学進学率30%からほぼ100%まで、学校間に大きなギャップがある。英語を母国語としない移民や低所得者が多いハワイ。子どもたちが将来の夢を描き実現できるようにするには、キンダーガーデンから大学まで、両親の学歴や収入にかかわらず誰もが行ける公立校のレベルアップが鍵になる。そして、ハワイで育った子どもたちがハワイで夢を実現できるようになる時、ハワイの未来の可能性は、大きく広がるのだと思う。
「143号掲載」